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パン屋になった人達 インタビューvol.3

子供たちが大きくなって。でもパン作りが好きだから、これからはほかの人に食べてもらえるように

片倉知美さん

パン作りが好きで、お子さんのために焼き続けた片倉さん。1人、2人と大きくなった子供達が独立していくたびに、それ自体は喜ばしいことながら、パンを食べてくれる人がいなくなってしまいます。でも好きなパン作りをやめることができず、パン屋の開業を目指します。

まさに今、開業の苦労の真っ只中

開業予定の店舗は今流行の倉庫をリノベーションした物件。
開業予定の店舗は今流行の倉庫をリノベーションした物件。

今回は「パン屋を開業した人」ではなく、まさしく今「開業しようとしている人」にお話を聞かせていただくことができた。

開業の予定をしている場所は大阪府東大阪市。新大阪駅からJRおおさか東線に乗って20分ほどで到着する高井田中央駅から歩いてすぐのところに、片倉知美さんが店舗として予定している物件がある。

この後に出てくるのだが、片倉さんはまだ開業のための資金の手当てができているわけではない。当然、出店予定の店舗には機材も什器も入っていない完全に「カラ」の状態なのだが、その中を見せてもらいながら開業の準備の苦労や、開業に向けての想いを話していただいた。

我流のパンは、時間が経つとカチカチに硬くなった

開業に向けて奔走中の片倉知美さん
開業に向けて奔走中の片倉知美さん

■パン作りに興味を持ったきっかけを教えていただけますか? 以前は介護士の仕事をしていました。仕事自体は楽しくて15年ほどやっていたのですが、でも仕事中に少し大きな怪我をしてしまって。それで介護士の仕事を辞めてしばらく家にいるしかなかった時期が続いたのです。そのときに、この先自分はどんな仕事をしていけるのか、どんな仕事をしていくべきなのかを考えました。体力的にも介護士にもどるのはちょっと厳しいなと思っていて。

いろいろ考えて、パンをつくる仕事につきたいなと。もともと家庭でパンを作るのは好きで、介護士の仕事をしていた時から手が空いた時にはパンを焼いていました。最初はただホームベーカリーで材料を入れてボタンを押すだけから始まったんですが、すぐに物足りなくなってしまって。

でも以前はネットもないし、パン教室に通う時間の余裕もなかったので完全に独学で、適当に粉をこねて焼いてみたりしていました。我流でも、パンって焼きたては香りがすごくいいし、生地もフワフワなんですよね。最初はそれがとてもうれしく満足だったんですが、でもそのパンは時間が経つとカチカチに硬くなってしまって(笑)。まだ小さかった子供たちにカチカチの硬いパンは食べさせたくないし、何とかパン屋さんのような美味しくて柔らかいパンが焼けないかなと。

当時は成分や材料の表示がいまほどしっかりしていない時代で。市販のものを買うと、もしアレルギーが出た時に何が入っているかわからないと、病院に行ってもすぐに対応ができないとか、そういうことも一番怖かったのもあった。やっぱり自分で材料を確認しながら作りたいなと思っていました。

手が込んでいて高級感のある内装
手が込んでいて高級感のある内装

資格をとっても年齢的な問題からどこも雇ってもらえない

体の具合がよくなって落ち着いてから、専門学校に3年間通って製菓衛生士の資格を取ります。学校で資格を取るためにいろいろ学んで、それから製菓製パンの技術も学んで、それで子供たちのために家でパンを焼いていたんです。

■専門学校では若い人ばかりですよね? そうそう。生徒もそうだし、先生が私より年下ということもありました。楽しいこともあったけど、正直つらいことの方が多かったと思います。それでも何年も通えたのはパン作りがそれだけ好きだったということ。それから製菓衛生士の資格があれば、将来もし開業するときに役に立つという安心感が欲しかったのもあります。

■資格を取ってどこかのベーカリーで働こうとは思わなかったんですか 製パンや製菓の仕事に就こうと思っても、どこも雇ってもらえなかったんです、年齢的な問題が大きくて。最初は正社員で探してもダメ、それではアルバイトでといってもダメ。資格があるといってもダメでしたね。だから資格を取っても現場で活かせる機会もなく、ただただ家で子どものために作って食べさせてとういう毎日でした。

でも今までつくっていたものに比べれば、はるかにパン屋さんに近いようなものが焼けるようになったりとか、失敗しても「こうだから、こうなったんだ」、というような考え方の整理ができるようになっていて、自分なりに経験が学びになっていくというか、やっぱり学んだことは大きかったと思っています。

そうやって家でパンを作りながら、悩んだりうまくいったりしているときにビアンキュイのレッスンに出会ったんです。

講習会やレシピ本では解決できない課題

店舗の入り口。これからどんなお店になるのか期待が広がる
店舗の入り口。これからどんなお店になるのか期待が広がる

ビアンキュイの映像を見て、実際にレッスンにも行くようになって、それはとても大きかったです。それまでは自分で経験を積みながら学んでいって、途中からレシピ本もたくさん読んで、いろいろな講習会にも通って、それはそれで得るものはあったけど、それでは解決できない問題や失敗がたくさんあったんです。なんで?どうして?という課題。それが全部解決できました。それに映像を見ながら一生懸命見た生地の扱いも、実際に自分の動きを見てもらう機会があって、「その動きは余計だからいらない」「その指の位置がおかしい」というような、なかなか気が付かない悪い癖も全部指摘してもらえて。

ビアンキュイのレッスンは他とちがって毎月行くことが原則でしたから、1回教わっただけでは気が付かないようなポイントをたくさん教えていただけました。開業しようと決めてからは、契約の話しとか業者さんの話とかそういうこともいろいろ教えていただけたのも助かりました。

子どもたちが独立して、でもやっぱりパンが作りたかった

「やっぱりパンは作りたい!という想いがどんどんつよくなって」と語る片倉さん
「やっぱりパンは作りたい!という想いがどんどんつよくなって」と語る片倉さん

■なぜパン屋さんを開業しようと思ったのですか やはりずっと子供達のためにパンを作っていたところがあって、でもだんだんと大きくなってくるにしたがって、社会人になって、独立して家で食事をしなくなります。そうすると私が家ですることがなくなってしまう。でもやっぱりパンは作りたい!という想いがどんどんつよくなって。いろいろ考えて今度は「家族以外の人に食べていただこう」という風に考えるようになってきました。

■パンを作ることをやめて何か他のことを、とは思わなかったのですか? それはないです。もともと介護士の仕事が好きだったのにそれができなくなって、その次に好きだったのが仕事ではないけれどパン作りだったから。その両方を捨てようとは思えなかった。

事業計画書のおかげで本当に自分のしたいことが整理できた

事業計画の立案は自分がお店を開く意義の再確認にもなった
事業計画の立案は自分がお店を開く意義の再確認にもなった

■現在は開業準備中ということですが 開業資金の多くを融資にしようとしているので、今は銀行の融資の審査待ちです。銀行に出す事業計画を出すのは大変でした。私は経営についてはそれまで全然経験が無かったし、パソコンも得意じゃなかったし。マーケティングなんかについても何もわからない状態から一生懸命勉強して自分の事業に当てはめていくための努力をしていきました。

■事業計画書は経験が無いとなかなか書くのは大変ですね 銀行の融資は審査で一度落ちてしまうと一定期間は再審査できないということなので、とりあえずという書き方ができません。一発勝負なので、わからないことは徹底的に勉強して、わからないことはわかる人に教えてもらってということの繰り返しでした。SDGsについても記載が必要ということで、その勉強もずいぶんしましたね。

■事業計画は書く側にとって都合の良い結果ありきの作文になってしまいがちなので、その点でのチェックはかなり厳しいですね 本当に細かいことまで質問がきました。人の確保のしかたとか、どのような人をいくらで採用できるのかとか。それから、災害が起きたときにどれくらい営業が止まってしまうのか、その間にかかる資金がどれくらいでそれは確保できているのかとか。でもそういうことを考えていくと、本当に自分がやりたいことは何なのか、何をしようとしているのかということも整理できてきて、そういう面でとても意義のあることでしたね。

長年住んできた地域の人たちに喜んでもらえるような場所にしたい

■どのようなお店にしていきたいですか? この場所は長年私が住んできたエリアのそばなので。そういう意味でこの地域の人たちに喜んでいただけるような場所になれたらいいなという想いがあります。そういう意味では、販売だけではなくてイートインのスペースもつくりたいなと。でも、いざ始めれば自分の好きなパン、作りたいパンではなくて売れるパンを作らなければならない。そういう意味でまだまだ勉強していかなくてはいけないことがたくさんあります。

パンを作るということの意味

せっかく身につけてきた美味しいパンを焼く技術と情熱をどうするのかという課題に、片倉さんは開業という道を選びました
せっかく身につけてきた美味しいパンを焼く技術と情熱をどうするのかという課題に、片倉さんは開業という道を選びました

子供や家族に「食べてもらいたい」「健康に良いものを食べさせたい」ということが、パンを自宅で焼いてみるというきっかけになった人は本当に多いと思う。そして喜んで食べていた子供たちもいつかは大きくなり、自宅で食事をする機会も減ってしまう。せっかく身につけてきた美味しいパンを焼く技術と情熱をどうするのかという課題に、片倉さんは開業という道を選んだ。

お話を聞いた時はまだ融資の決定がされていない段階であったが、片倉さんの行動力と熱意があれば最後には良い結果が出るのではと感じている。開業が実現された段階で、また改めてお話を聞かせていただくとことが楽しみだ。


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